ムカデ騒動と当直のリアル

当直にちょっと慣れてきたある日のこと。
夜中に病院の電話が鳴った。出てみると、「ムカデに噛まれたから診てほしい」とのこと。
時刻は深夜2時過ぎ。
今日の当直の先生は…まさかの肛門科の先生。

「先生、ムカデって診れますか?」とダメ元で聞いてみたら、
「いやー、対応したことないから、よくわからないなあ」との返答。そりゃそうだ。
一応、電話口の方には「今日は専門の先生じゃないので、対応が難しいかもしれません」と丁寧に説明。
すると返ってきたのは、
「お医者さんでしょ?何でも診れるんじゃないの?病院のすぐ近くに住んでるから、すぐ行けるの!」と、なかなかのゴリ押し。

こうなるともう、こっちが折れるしかない。
先生と相談して「とりあえず来てもらいましょう」ということに。

そこから1時間後――やっと患者さん到着。
(…いや、すぐ来れるんじゃなかったのかい?)

さて診察。
先生はというと、パソコン片手に「ムカデ 噛まれた 対応」といった感じで検索しながらスタート。
いや、初めてだし仕方ないとは思うけど、患者さんの目の前で堂々と検索する勇気、すごい。
「たぶん大丈夫だと思うけどね〜」と、ネット情報をもとに慎重に診察。
聞いてた話では、「噛まれた部分が赤く腫れてきてる」とのことだったんだけど…
実際見てみると、どこを噛まれたのかもわからないし、赤みも腫れも特に見当たらない。

とりあえず応急的に軟膏を塗って、「様子見で」と伝えて帰ってもらった。

ここまでは、まあよくある“ちょっとしたハプニング”くらいの話だったんだけど――
問題は次の日。
病院にクレームの電話が入りました。

「ちゃんと診てもらえなかった」
「処置も何もしてくれなかった」
「夜中なのに病院が明るすぎる」
「空調が寒すぎた」
「先生がネット見ながら診察してた、ありえない」
…と、まさかのフルコース。

いやいやいや、最初に「専門外だからちゃんと診れるかわかりませんよ」って説明しましたよね?
それでも「来たい」って言ったのはそっちじゃないですか…?
しかも診察はしっかりしたし、軟膏も塗ったし、深夜に起こされて準備できる分はして待ってたのに。できることはちゃんとやったつもり。

もちろん、患者さんの不安な気持ちはわかる。
夜中に虫に噛まれたらパニックになるのも無理はない。
でも、こちらも人間だし限界もある。
そしてなにより、医者だって万能じゃないんです。

それからというもの、その患者さんの名前と顔はしっかりインプットされてしまい、もし診察介助で見かけると無意識にちょっと身構えてしまう。
もちろん偏見とかじゃなくて、“また何か言われるかも”っていう身の引き締まり感。

病院って「誰でも受け入れる場所」だけど、
現実には専門や対応できる内容、時間帯、マンパワーの限界があって、
それでも「とにかく診て」と言われてしまう難しさがある。

断っても来る人は来る。
断ったら断ったで、「冷たい」と言われる。
診たら診たで、「ちゃんと診てない」と言われる。
いや〜、ほんとに難しい。

深夜のムカデ騒動、忘れられない一件です。

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